漢字をひらく(開く)とは?わかりやすい文章を書くために必須な表記ルールの基本

文章を書く際、漢字とひらがなの使い方はその文のトーンや意味を大きく左右します。

「漢字をひらく(開く)」とは、特定の言葉をひらがなにすることです。

漢字をひらく(開く)か、とじる(閉じる)かを判断する技法は、文章の明瞭さ、理解しやすさ、または意図的な印象を強調するために使われるのが一般的でしょう。

この記事では、どんなときに漢字をひらくとよいと考えられるのか、わかりやすい文章を書くための基本的な表記ルールを解説します。

目次

漢字をひらく(開く)・とじる(閉じる)とは?

漢字をひらく(開く)とは、特定の語句をひらがなで表記することです。

一方、漢字をとじる(閉じる)とは、特定の語句を漢字で表記することを指します。

これらは、文章を書く際に意図した印象を与えたり、文章の信頼性を高めたりするための手法として用いられる技法です。

例えば、「よろしくお願いいたします」の「いたします」を「致します」と表記すると、「漢字をとじる」例となり、逆に「致します」を「いたします」とすると「漢字をひらく」例となります。

このように、同じ意味の表現でも、その表記方法により、受け取る印象が変わることがあるため、注意して使い分けなければなりません。

漢字をひらく(開く)理由

漢字をひらく(開く)ことは、文章作成の中で重要な技法の一つとされています。

読みやすい文章にするため

日本語の文章は、情報を伝えるためのツールであるだけではなく、その表記の仕方一つによって読み手の感情や印象を左右する力があるため、意識して使うことが必要です。

特にひらがなによる表記は、視覚的に読みやすく、また文脈の中での適切な言葉選びによって、さまざまな感情表現を可能にします。

例えば、「謝る」という表現を「あやまる」とひらがなにすることで、より柔らかく、人間らしい印象を与えることができるでしょう。

これにより、読み手の感情に訴え、深くメッセージを理解してもらうことが可能です。

文章の意図を正しく伝えるため 

文章を書く際には、情報を伝えるだけでなく、その情報がどう受け取られるかも大切です。

例えば、「時」と「とき」では、同じ用語であっても、漢字で書く場合とひらがなで書く場合とでは、情報の受け手がどのように受け取るか、その意味が微妙に変わるでしょう。

以下に文例をいくつか示します。

「この時を逃したら、二度と同じチャンスは訪れないだろう」
「このときを逃したら、二度と同じチャンスは訪れないだろう」

「時」は具体的な時間や瞬間を指し、漢字にすることでその瞬間の重要性(特定の瞬間の意)がより強調されるのが特徴です。一方、「とき」はひらがなにすることでより柔らかく、曖昧な期間を指している感じを与えるでしょう。

「その時、彼の目には驚きが宿っていた」
「そのとき、彼の目には驚きが宿っていた」

「時」は特定の瞬間を強調し、事件の発生を示すなど物語のキーポイントを強調します。一方、「とき」は一般的な時間の流れを示すような、より日常的で曖昧な期間を指している印象を与えるでしょう。

このように、同じ言葉でも漢字とひらがなでどのように書くかは、その文の雰囲気や意図を大きく左右します。

漢字が持つ意味をイメージさせないため

漢字が持つ意味をイメージさせないようにするうえでも、漢字とひらがなの使い分けは非常に重要です。

例えば、「思う」という単語を考えてみましょう。

「彼は深く思った」
「彼は深くおもった」

一つ目の文は「思う」という単語が漢字で書かれており、一般的には理性的な思考や考慮を強く想起させます。

それに対して二つ目の文は、「おもった」とひらがなで表現されている例です。

これにより、深い感情や直感的な思考をイメージさせることができます。

だからといって、ひらがなで書かれた「おもった」が必ずしも感情的な意味合いだけに限定されるわけではありません。

しかし、漢字の「思った」に比べて、読者に与える印象はやや異なるのが普通です。

この例から、漢字とひらがなの使い分けは、書き手の意図やイメージを具体的に伝えるための重要なツールであることがわかります。

特に漢字が持つ特定の意味やイメージを避けたい場合には、ひらがなを使用することで意図的にその影響を和らげることが可能です。

ひらいたほうがよい漢字の一覧

読みやすい文章を書くためには、適切な漢字の使用が必要です。

特に文章全体を固い雰囲気にするためにあえて漢字にするのももちろんOKですが、副詞、接続詞、形式名詞、補助動詞、連体詞などはひらいて表記すると、文章の可読性が向上することが多いでしょう。

さらに、一部の常用漢字表にない漢字もひらいて表記することで、より多くの人々に文章の内容を理解してもらうことが可能です。

以下に、具体的な例を挙げてそれぞれの点を詳しく説明します。

副詞

副詞は名詞以外の語句(動詞・形容詞・形容動詞など)を修飾し、詳しい意味を付け加える役割を果たします。

副詞は、動詞や形容詞といった漢字で表記されることの多い語句と組み合わさることが多いため、副詞はひらいて表記することで、文章のバランスを保つことができるでしょう。

具体的にひらいたほうがよい副詞は次のとおりです。

一層:いっそう
極めて:きわめて
更に:さらに
暫く:しばらく
随分:ずいぶん
既に:すでに
是非:ぜひ
大層:たいそう
大変:たいへん
仮令:たとえ
偶に:たまに
時々:ときどき
何故:なぜ

接続詞

接続詞は、文と文、語と語をつなげる役割を果たします。接続詞もひらくことで、読みやすさを向上させることができるでしょう。

具体的にひらいたほうがよい接続詞は次のとおりです。

及び:および
且つ:かつ
従って:したがって
但し:ただし
尚:なお
並びに:ならびに
又は:または

形式名詞

形式名詞は、実質的な意味を持たず、その節を名詞化するための名詞です。形式名詞もひらくことで、文章の一貫性と親しみやすさを保つことができます。

具体的にひらいたほうがよい形式名詞は次のとおりです。

~する上で:~するうえで
~する事:~すること
~する度:~するたび
~する時:~するとき
~する他:~するほか
~という物:~というもの

補助動詞

補助動詞は、動詞の後に付くことで、その動詞に補助的な意味を加える役割を果たします。

補助動詞もひらくことで、文章の語調を統一し、読みやすさを向上させられるでしょう。

具体的にひらいたほうがよい補助動詞は次のとおりです。

~して行く:~していく
~して頂く:~していただく
~して置く:~しておく
~して下さい:~してください
~して来る:~してくる
~して見る:~してみる

ただし、「ください」と「下さい」には、意味の違いがあります。以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。

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連体詞

連体詞は名詞を修飾する語です。一部の連体詞はひらくことで、文章全体の語調を統一し、読みやすさを向上させることができます。

具体的にひらいたほうがよい連体詞は次のとおりです。

色々な:いろいろな
所謂:いわゆる
此の・其の:この・その
様々な:さまざまな

常用漢字表にない漢字

常用漢字表にない漢字は、一般的には読みにくいと感じる読者もいるため、ひらくことが推奨されます。

具体的にひらいたほうがよい常用漢字表にない漢字は次のとおりです。

~位:~くらい/~ぐらい
~等:~など
~程:~ほど
~迄:~まで

漢字をひらく(開く)ときのコツと注意点

漢字をひらがなにするかどうかは、読み手の理解を深めたり、文章の雰囲気を調節したりする重要な要素となります。

しかし、ひらく漢字が多すぎると逆に混乱を招きかねません。そのため、どの漢字をひらき、どの漢字をそのままにするかを決定するには、一定のガイドラインが必要です。

ここでは、「記者ハンドブック」を参考にしたり、統一性を保ったりすることの重要性、校正ツールの活用方法、そして引用時の特例について説明します。

これらのコツと注意点を理解することは、読み手にとって理解しやすい、適切な表現を選ぶ手助けとなるでしょう。

「記者ハンドブック」を参考にする

記事作成や報道関連の業務でよく使用される「記者ハンドブック」は、漢字のひらき方について詳細なガイドラインを提供しています。

このハンドブックは、表記の揺れや混乱を防ぐための基準を設定しており、それぞれの漢字がひらかれるべき場合と、そうでない場合を示しているのが特徴です。

特に一般的な漢字でさえも読み手によっては読みづらい場合があるため、これらの基準は非常に役立つでしょう。

記事内でひらく漢字は統一する

記事や論文、報告書などの中で、同一の漢字を繰り返し使用する場合、その表記は統一されるべきです。

例えば、「事(こと)」を一部で「こと」、他の部分で「事」と表記していると、読者は混乱する可能性があります。

統一性は文章全体の一貫性を保ち、読み手にとっての読みやすさを確保するための重要な要素です。

文章校正ツールで表記ゆれを防ぐ

表記の揺れを防ぐのに役立つのが文章校正ツールです。このようなツールは、ひらき表記と漢字表記の間で一貫性がない場合に警告を発します。

これにより、手動で全文をチェックする手間を省くことができ、より一貫性のある文章を提供することが可能です。

さらに、文法やスペルミスなどの一般的な誤りも検出します。

「引用」した箇所は表記の混在もOK

「引用」した部分については、元の文献や出典と同じ表記を保つことが一般的です。

そのため、文章全体としてひらき表記を選択していても、引用部分だけは漢字表記になる場合があります。

これは読者にとっても理解しやすく、引用元の正確な意味を維持するためにも必要な場合があるでしょう。

ただし、引用を多用する場合は、全体の一貫性や読みやすさも考慮に入れることが重要です。

ひらく(開く)漢字にはルールがある

漢字をひらくか否かは単に個々の好みに任せるものではありません。

それはさまざまなルールに基づいて判断され、文脈、出版社やメディアのポリシー、読者のレベルなどによって異なります。

それぞれの状況に対応するためには、どのようにルールを適用するかが重要です。

ここでは、出版社やメディアごとのルールと、個人や自社メディアで自己のルールを設定する方法について説明します。

出版社・メディアごとに表記ルールがある

各出版社やメディアは、自分たちの読者層に適した漢字のひらき方について独自のルールを持っています。

例えば、専門的な学術誌では専門用語がひらがなになることは少ないですが、一方で一般向けの新聞や雑誌では難解な漢字はひらがなにすることがあります。

これらのルールは読者が容易に理解できるように、また一貫性を保つために設定されるものです。

個人・自社メディアでは「マイルール」を決める

一方、個人のブログや自社メディアを運営している場合、自分たちで「マイルール」を設定することが可能です。

しかし、その際にも一貫性と読みやすさを保つためには、一定のガイドラインを設ける必要があります。

例えば、特定の専門用語や固有名詞については常に同じ表記を保つ、といったルールを決めておくとよいでしょう。

また、一般的な読者が理解しにくいと思われる漢字は、なるべくひらがなにするという原則を設けるのも一つの方法です。

適切に漢字をひらいて読みやすい文章を目指そう

漢字のひらき方は読者の理解に影響します。副詞、接続詞、形式名詞、補助動詞、連体詞、非常用漢字はひらくと読みやすくなることが多くなります。

しかし、統一性も重要で特定の語彙は漢字で表記するべきです。

出版社やメディアは独自の表記ルールを持つことがあり、特に個人や自社メディアでは自身でルールを設けている場合があるので、事前に確認しておきましょう。

校正ツールを使うことで表記揺れを防ぎ、リファレンスを参照することで一貫性を保つことが可能です。

また、引用の際は元の表記を尊重し、表記混在も許容されます。

このように、漢字をひらくか否かは複数の要素によって決まるので注意してください。読者を意識し、状況に応じて柔軟に対応することが求められます。

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