い抜き言葉とは?見分け方は?ライターが意識すべき違和感が消える言葉の使い方

「『ら抜き言葉』は間違いだ」とはよく聞くと思いますが、「い抜き言葉」は聞いたことがあるでしょうか?

「ら抜き言葉」同様、誤った表現なのですが、それほど大きく取り上げられたことがありません。

そのため、ライティング初心者や日本語文法が得意でない方の中には、知らない方も多いのではないでしょうか?

文法的には間違いであるにもかかわらず、その名称も正体もあまり知られていない「い抜き言葉」について、詳しく解説していきます。

目次

い抜き言葉とは

「い抜き言葉」は、その名のとおり、本来入るべき「い」が省かれた表現。

例えば「食べて『い』る」とすべきところ、「食べてる」と書いてしまうことです。

普段の会話の中では、違和感なく聞こえる表現ですが、いったいなぜいけないのでしょうか?

くだけた口語表現

「い抜き言葉」はカジュアルな会話では自然に聞こえますが、目上の人への言葉や文章に書くと、くだけた印象になってしまいます。

正しくは「以前、部長にお話しして『い』た件」と書くところを、「以前、部長にお話ししてた件」とするとどうでしょう?

突然、立場が逆転したかのような、馴れ馴れしい雰囲気に変化しませんか?

非常にカジュアルな表現なので、企業の公式Webサイトで使ってしまうと、企業のイメージや印象が悪くなってしまいます。

その結果、サイトへの訪問者が減り、SEO的に見てもマイナスです。

また仕事のメールなどでのコミュニケーションで使うと、相手に失礼になるだけでなく、書き手の常識が疑われることになります。

文法的には誤り

例えば本来「分かって『い』る」と書くべきところを、「分かってる」と書いても意味は通じます。

しかし、動詞の後ろにつく「いる」という補助動詞から「い」だけが抜け落ちた表現なので文法的に見れば明らかに誤りです。

また最近は補助動詞の「い抜け」だけでなく、形容詞の「い」が抜けるケースも「い抜き言葉」として、多く使われています。

例文

寒い!→さむ!

強い!→つよ!

などです。

こちらも文法的に間違っているので、公式な文章では用いないのが基本です。

い抜き言葉の例

「い抜き言葉」は、今ではいたるところで耳にします。

幾つか例を挙げてみましょう。

例文

×分かってます→〇分かって『い』ます
×お待ちしてます→〇お待ちして『い』ます
×読んでます→〇読んで『い』ます
×休んでる→〇休んで『い』る
×思ってます→〇思って『い』ます
×ついてる→〇ついて『い』る
×困ってる→〇困って『い』る
×話してます→〇話して『い』ます
×分かってる→〇分かって『い』る
×閉まってる→〇閉まって『い』る

まだまだたくさんあるのですが、どれもよく使われる言葉ですね。

これだけ一般化しているため、間違いの見分け方が難しいのが「い抜き言葉」の厄介なところです。

い抜き言葉の見分け方

日常、当たり前のように使われているため、「これは『い抜き言葉』だ」という認識がないと、見分けるのは非常に困難です。

そもそも間違っていると認識している場合は、自分では「い抜き言葉」は使わず、他人の文章でも見つけるのは難しくありません。

反対に認識していない場合は、どれが「い抜き言葉」か気づくこともできないので、見分けることもできません。

とはいえ対策方法や見分けるためのコツがないわけではありません。

「おります」で変換できる

文中に「動詞+『ます(助動詞)』」が出てきた場合、「ます」の部分を「~おります」「~おりません」「~おりました」に言い換えられるかどうかを確認してみましょう。

置き換えても意味が通じる場合は、「い抜き言葉」が使われている可能性があるので注意が必要です。

例文

・お世話になってます→お世話になって『おります』

・困ってません→困って『おりません』

・体調不良で休んでました→体調不良で休んで『おりました』

いずれも「~おります」「~おりません」「~おりました」に置き換えられるので、すべて「い抜き言葉」だと分かります。

校正ツールでは見落とされがち

また、無料や有料の校正ツールを使ったチェックでも見つけることができます。

ただし校正ツールにはそれぞれ特性があり、校正の精度にもバラつきがあるので全面的に信用するのは危険です。

効率的に速くチェックができるので便利ですが、見落としも多いため、人によるチェックのサポートツールとして参考程度に利用するようにしましょう。

い抜き言葉が適している場面

「い抜き言葉」は文法的に間違った表現のため、文章内での使用は控えるのが原則です。

しかし、記事内での使用場面や読み手との関係性、対象とする読者層によっては「い抜き言葉」のほうが適している場合もあります。

くだけた文章

例えばSNSや個人のブログ、また若い世代を相手にしたカジュアルなサイトでは、かしこまった言い回しより、「い抜き言葉」を使ったくだけた表現のほうが受け入れられます。

例①

最近、本を読んでます?読まなきゃいけないと分かってるけど、時間がなくて困ってるんだ。なんかいい時間の作り方あったら、教えてね!DMお待ちしてます!!

例②

最近、本を読んでいますか?読まなきゃいけないと分かっているけど、時間がなくて困っているんだ。なんかいい時間の作り方あったら、教えてね!DMお待ちしています!!

若い人が書いたSNSやブログ記事の場合、①の「い抜き言葉」のほうが親近感があって、書き手の人柄などが伝わりやすくないでしょうか?

逆に②の正しい書き方のほうが、違和感があって、少し深刻なニュアンスになってしまっていますね。

①のようなくだけたイメージで情報を発信するメディアでは「い抜き言葉」のほうが、読み手の意図を正確に伝えられる場合があります。

会話文の引用

また文中で会話文を引用する場合にも、「い抜き言葉」が適している場面があります。

例文

A:「昨日、学校休んでたね?」

B:「うん、昼過ぎまで寝てた」

A:「先生、怒ってたよ」

B:「分かってる…」

これを正しい文法で書くと次のようになります。

例文

A:「昨日、学校休んでいたね?」

B:「うん、昼過ぎまで寝ていた」

A:「先生、怒っていたよ」

B:「分かっている…」

「い抜き言葉」を訂正してしまうと、テンポが悪く、AさんとBさんとの関係性が全く違った印象になってしまいます。

ストーリーの流れや印象を壊さないためにも、会話文ではシーンによって「い抜き言葉」のほうが適している場合があります。

インタビュー記事を会話形式で書く場合も同様です。

い抜き言葉が不適切な場面

「い抜き言葉」が適切な場合というのは、あくまでも例外的な使い方であって、一般的には使わないのが正しい日本語です。

では、次は「い抜き言葉」が不適切なケースを見てみましょう。

書き言葉の文章

仕事やかしこまった場面など、文章を書くほとんどの場合は「い抜き言葉」は不適切です。

稚拙でくだけた文章となってしまうことで、書かれている内容の良し悪し以前に、軽々しくて信用できない情報と思われてしまうため、気をつけなければいけません。

特に企業のWebサイトや公式文書で「い抜き言葉」を使うと、書き手だけでなく企業全体の評価を下げるので、十分注意が必要です。

ビジネスメール

ビジネス上のメールのやり取りでも、「い抜き言葉」は不適切です。

どんなに親しい間柄の相手であっても、仕事上のメールには正しい言葉遣いで書くようにしてください。

気づかずに使ってしまうと、書き手の知性や常識が疑われることになり、相手によってはビジネスに影響が出る可能性もあります。

相手がい抜き言葉を使ってきた場合の対応

もし仕事の相手がメールで「い抜き言葉」を使ってきたときは、目くじらを立てて指摘したりせずに、「反面教師」ととらえ、以後の自分の文章に気を配るといいでしょう。

い抜き言葉を使わないためのポイント

意識することなく、当たり前に使っていると、見分けるのがとても難しい「い抜き言葉」。

文中で間違って使われた「い抜き言葉」を見つけるのと同時に、自分でも使わないように気をつけなければいけません。

そのためのポイントをいくつか紹介します。

自分の癖を把握する

「い抜き言葉」を使ってしまうのは、多くの場合「クセ」です。

自分では意識せずに、書いてしまいます。

直すためには、まず「い抜き言葉」がどういうものかを明確に意識すること。

そのうえで、自分が無意識のうちに書いてしまっているという「クセ」を自覚することです。

その意識と自覚がないと、「い抜き言葉」をなくすことは難しくなります。

日々使う言葉を意識する

意識と自覚を持つためには、普段から「い抜き言葉」を使わないように注意することが大切です。

メールやSNSで使っている文章も「い抜き言葉」を使わないように気を配ります。

ただ、日常会話まで気を配ると、これまでの相手との関係性がこじれてしまう可能性があります。

会話では「い抜き言葉」を使いながらも、「あ、これは『い抜き言葉』だな」と意識できれば、だんだんと効果が出てくるでしょう。

用字用語辞典を活用する

また普段から用字用語辞典を見て、「い抜き言葉」にはどういうものがあるのかを勉強しておくのも有効です。

用字用語辞典には、漢字や送り仮名、カタカナの使い方など正しい表記の仕方、さらに常用漢字などがまとめられています。

「い抜き言葉」以外にも、知らずに使っていた間違った表現や漢字なども分かるので、ライティングや文法の知識も深まります。

編集者やライター、校正者なども使用しているおすすめの用語用字辞典は次の3つ。

「朝日新聞の用語の手引き」(朝日新聞社用語幹事 編)

「記者ハンドブック 新聞用字用語集」(共同通信社 編)

「用字用語 新表記辞典」(第一法規 編)

い抜き言葉以外の「〇〇言葉」

日本語には「い抜き言葉」以外にも、似たような表現の乱れがあります。

その中から、最近よく問題になる表現3つを紹介します。

どれも日常会話ではよく使われているため、文章に書く時も使ってしまいがちですが、間違った表現なので注意が必要です。

ら抜き言葉

多くの方が聞いたことがあると思いますが、どういう表現なのか理解しているでしょうか?

「ら抜き言葉」は、「~できる」という「可能」を表す表現につける「られる」から「ら」を省略した言葉のこと。

例えば「食べ『ら』れる」と書くべきところを「食べれる」と「ら」を抜いてしまう表現です。

ほかにも、「着『ら』れる」が「着れる」に、「見『ら』れる」が「見れる」になるなど、日常会話では当たり前になった言い方です。

見分け方は、動詞の後ろに勧誘の意味の「~よう」をつけて意味が通じる場合は、「『ら』れる」をつけること。

例えば「見れる」の場合、動詞「見る」の後ろに「よう」をつけると「見よう」となり、意味が通じるので「見『ら』れる」と「ら」をつけなければいけません。

一方、「売れる」の場合、動詞「売る」の後ろに「よう」をつけて「売よう」とはならないため、「ら」は不要です。

ら抜き言葉については、見分け方も含めこちらで詳しく解説しているので併せてお読みください。

さ入れ言葉

抜けるばかりでなく、余計な文字を追加してしまう表現もあります。

その一つが「さ入れ言葉」。

敬語のひとつ謙譲語の「いただく」と一緒に使う助動詞「せる」「させる」を、より丁寧に使おうとして、余計な「さ」を入れてしまう表現です。

例文

〇歌わせていただきます→×歌わ『さ』せていただきます

〇行かせていただきます→×行か『さ』せていただきます

〇手伝わせていただきます→×手伝わ『さ』せていただきます

見分け方のひとつは、動詞に「ない」をつけたとき、「ない」の直前の文字が「ア段」なら「~せていただきます」、それ以外の場合は「~させていただく」をつけます。

例えば「歌う」に「ない」をつけると「歌わない」となり、「ない」の直前「わ」は「ア段」なので、「歌わ『せていただきます』」が正しい表現です。

例外は幾つかありますが、まずはこの方法で見分けるといいでしょう。

れ足す言葉

余計な文字を入れてしまう表現としては、「れ足す言葉」もあります。

「~できる」という可能表現に、本来不要な「れ」を足してしまった言い方です。

例文

〇書けます→×書け『れ』ます

〇読めます→×読め『れ』ます

〇行けます→×行け『れ』ます。

「ら抜き言葉」や「い抜き言葉」ほど広く使われていませんが、SNSなどを通じて若い人たちの間で使われています。

そのため、これから話し言葉としてジワジワと広まってくれば、書き言葉にも影響してくるかもしれません。

い抜き言葉を意識して読者に伝わる文章を書こう

「い抜き言葉」は、いくら日常会話では当たり前に使われるようになったといえ、文法的には誤った表現です。

公式サイトや公式文書などで使ってしまうと、事業に大きな影響が出てしまいます。

またビジネスメールなどで使用すると、相手に失礼なだけでなく、稚拙で常識のない人と評価されかねません。

しかし、「い抜き言葉」のほうが適している場面もあります。

理由なしに、アタマから否定するのではなく、状況に応じて使いこなすことが大切です。

日常的に使われているからこそ、普段からしっかり意識して、相手に正しく伝わる日本語を書くように心がけましょう。

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