次の、ひらがなの「ください」と漢字の「下さい」の使い方、どちらが正しいか分かりますか?
この商品をください/この商品を下さい
お座りください/お座り下さい
いつもどちらが正しいか分からず、違和感を感じながらも、何となく普段の習慣で使っていないでしょうか。
しかし、「ください」と「下さい」には、ちゃんとした違いがあるのです。これから解説するそれぞれの違いを読んで、正確な文章表現の参考にしてください。
「ください」「下さい」の意味の違いとは?
公用文や会社の正式文書、公式サイトの記事などに用いる文章は、日常的な文章や小説などと違い、誤解を招く言葉を使うと大きな問題になります。
そこで、「ください」と「下さい」を正しく使い分けるため、それぞれの違いを見てみましょう。
「ください」は補助動詞
ひらがなの「ください」は、相手に対して何らかの行動や動作を要求したり、お願いしたりすることを丁寧に表現する敬語です。
「動詞」の後ろに付いて、その動詞の意味を補う「補助動詞」になります。
「ご確認ください」とか「ご覧ください」など、ビジネスシーンなどでも頻繁に出てくる使い方です。
令和4年の「公用文作成の考え方」には、原則として、公用文を書く時は「補助動詞は仮名で書くこと」と規定されています。
参考資料: 令和4年「公用文作成の考え方(建議)|文部科学省」
「下さい」は「くれ」の丁寧語
一方、漢字の「下さい」は、相手にモノや行為を要求する場合に用いられる動詞「くれ」の尊敬語・丁寧語です。
「この商品を下さい」とか「少し時間を下さい」など、何かを自分に与えて欲しい場面で使用する言葉なので、多くの場合「下さい」の前には「名詞」+「を」がくることになります。
「下さい」の「下」という漢字は、常用漢字表に記載されています。「公用文作成の考え方(建議)」では、「常用漢字表にある漢字はそのまま漢字で書く」のがルールとなっています。
「ください」「下さい」を英語表現するとわかりやすい
日本語では少し違いが分かりにくいですが、英語に置き換えると分かりやすくなります。
「ください」は相手に何かをお願いする意味なので、英語の「Please~」にあたります。
例文
Please send this mail tomorrow.(明日このメールを送ってください)
「下さい」はモノを要求する意味なので、英語では「give」や「Could you give me~」となります。
例文
Could you give me something to drink?(何か飲み物を下さい)
「ください」「下さい」の公用文の使い分け
「ください」と「下さい」それぞれの意味の違いを踏まえて、ここからは、使い分け方を幾つかの例文を交えながら紹介します。
公用文のルール:補助動詞はひらがな表記、常用漢字は漢字表記ということを頭に入れて、具体例を見てください。
「ください」の例文
ひらがなの「ください」は、相手への要望やお願いを丁寧に表現する言葉なので、公用文や会社で使う文章などでは頻繁に使われます。
例文
・社外秘となっていることをご留意ください
・お配りした資料をご活用ください
・この機会に、ぜひご応募ください
・これからも頑張ってください
いずれも、「留意する」「活用する」「応募する」「頑張る」という動詞を丁寧に表現する「補助動詞」として用いられているので、ひらがな表記です。
「下さい」の例文
漢字の「下さい」は、相手に何かを要求したり、お願いしたりするときに使う「くれ」という動詞を丁寧に表現した尊敬語です。
例文
・この件について、何かアドバイスを下さい
・検討しますので、もう少し時間を下さい
・のどが渇いたので、飲み物を下さい
・明日、お電話を下さい
「下さい」の前には、目的語となる名詞と「を」がくることがほとんどです。
先述のように 「下さい」の「下」の字は、常用漢字表に記載されているので、漢字で表記します。
ビジネスシーンにふさわしい「ください」の使い方
公用文ではないですが、仕事で使う文章でも誤解を招かない言葉の使い方が必要です。
自分は正しいと思っている使い方が、実は間違えていたり、相手に対して慇懃無礼だったりしていないか、一度確認してみてください。
「お/ご」+「ください」は定番
ひらがなの「ください」の前の動詞に「お/ご」を付ける表現は、ビジネスでは定番中の定番です。
例文
・資料をお送りしますので、ご確認ください
・提案書が完成しましたので、ご一読ください
・ご遠慮なく、お問い合わせください
『お/ご+ください』の表現は、会社の上司や客先に対して、「〇〇〇してほしい」という意図を丁寧に敬意を込めて伝える敬語表現です。
相手を問わず、誰に対して用いても失礼には当たりません。
「ください」では失礼にあたる場合
「ください」だけを使うと、相手に命令しているようになり、失礼にあたる場合があるので注意が必要です。
例えば、以下の文章は少し高圧的に聞こえます。
例文
・この資料を確認してください
・提案書を読んでください
『お/ご+ください』という表現を使いにくい場合は、「〇〇〇していただけますでしょうか」や「〇〇〇をお願いいたします」という表現に置き換えることもできます。
例文
・確認していただけますでしょうか?
・ご連絡をお願いいたします
慇懃無礼に注意する
しかし、失礼がないようにという想いから、文中に敬語表現を過剰に盛り込むと、今度は慇懃無礼になってしまいます。
例えば、「確認してください」を丁寧な表現にする場合は、以下となります。
例文
・お送りした資料をご確認ください
・お送りした資料をご確認いただけますでしょうか?
しかし、次の文章は、少し敬語を盛り込みすぎです。
例文
お送りさせていただきました資料につきまして、ご多用中のところ、誠に恐縮とは存じますが、ご確認いただければ幸甚でございます
「ください」「下さい」の類義語と例文
ここまで意味と使い方を解説しましたが、一つの文書内に「ください」や「下さい」が何度も出現すると、読み手も読みにくくなってしまいます。
そんな時は、言い換え表現として「類義語(類語)」を利用すると読みにくさが改善されます。
「ください」
「ください」に意図が近い類義語の代表例として、以下のような表現が挙げられます。
「〇〇〇をしていただきたい」
他の人に何かをしてもらいたいという意図を伝える補助動詞。
例文
・資料の確認をしていただきたい
・検討していただけますでしょうか?
「〇〇〇をお願いします」
「ください」と同様、相手に何かの行動を要求する場合に使います。
例文
・内容のご確認をお願いします
・ご検討をお願いします
「下さい」
動詞の「下さい」の代表的な類義語は以下になります。
「〇〇〇を賜りたい」
目上の人からモノをもらうという意味※。
例文
・何かアドバイスを賜りたい
・明日までのご連絡を賜りたい
「〇〇〇を戴きたい」
「賜りたい」と同様、目上の人から何かをもらうという意味※。
例文
・何かアドバイスを戴きたい
・明日までのご連絡を戴きたい
※「新明解国語辞典(三省堂)」から引用して要約
「ください」「下さい」についてよくある質問
「ください」と「下さい」は、使い分けや意味の違いが分かりにくいため、使い方や書き方についての相談や質問が寄せられます。
中でも多いのが、この使い方は相手に失礼にならないだろうか?という相談です。その中の代表的な質問と回答を紹介しましょう。
「下さい」は失礼にあたりますか?
「下さい」は相手に対してモノなどが欲しい時に使う「くれ」という動詞を丁寧な表現にしたものなので、失礼にはあたりません。
しかし相手によっては、ぶしつけにモノを要求されたようにとらえられてしまう場合もあります。
また、まれに「下さい」には「下」という字が使われているので、見下されているように感じる人もいるようです。
気になるときは、「戴けますでしょうか?」とか「頂戴したい」と言い換えるといいでしょう
「お願いします」と「ください」の違いは何ですか?
どちらも相手に何かを要望や依頼をするときに使う表現で、言葉の意味としての違いはありません。
ただ文法的には、「ください」は「補助動詞」で、「お願いします」は動詞「お願い」の謙譲語という違いがあります。
また、「お願いします」は、「お願いいたします」や「お願い申し上げます」など、相手の立場に合わせて使い分けることができます。
一方「ください」をそれだけで使うと、ぶっきらぼうな印象になってしまうので注意が必要です。
「ください」「下さい」の違いを理解して使い分けよう
両者の違いをまとめると以下のようになります。
「ください」 | 「下さい」 | |
---|---|---|
意味 | 相手に行動や動作を要求したり、お願いしたりする丁寧表現 | 相手にモノや行為を要求する場合に用いられる「くれ」の尊敬語 |
表記 | 補助動詞なのでひらがな表記 | 常用漢字なので漢字表記 |
英語 | Please | give, Could you give me |
言い換え (類義語) | 「していただきたい」「お願いします」など | 「賜りたい」「戴きたい」など |
正しい意味と用法を理解して、正確で誤解のない文章の作成をしましょう。
ちなみに冒頭の問題の答えは、以下のとおりです。
誤:この商品をください / 正:この商品を下さい
正:お座りください / 誤:お座り下さい